みなさん、こんにちは!
作文講師の菅野恭子です。学習塾シンクスで作文を教えています
さて、夏休みも残すところ1週間あまり。
作文や読書感想文の宿題は無事に終わりましたか?
昨日、教室で、小6の男の子ふたりが感想文に取り組みました。
ふたりとも、作文や感想文が大の苦手。
小1のころから、ずっと悩みの種なのだそうです。
去年は、感想文を仕上げるのに、なんと7時間もかかってしまったとのこと!
それだけ時間がかかったら、苦手意識が大きくなってしまうばかりですよね。
そんな書くことが苦手という子たちでも、2時間で1000字を超える感想文を仕上げることができました!
しかも、自分の気持ちがしっかり詰まっている、充実した内容の感想文なんですよ。
「おまえの本、どんなの?」
「あ、ハチ公、聞いたことある!」
「なんで八って名前がついたか知ってる?」
そんな会話をしてます。
感情の動かない子はいない
このふたり。
ひとりの子は、『ハチ公物語』で書きたいと。
そしてもうひとりの子は、『ロボット魔法部はじめます』という本。
ふたりとも、しっかり本を読んできていました。
そして、いろいろと思うところもあるようです。
でも、その思いをうまく伝えることがまだ難しいのですよね。
感情って、理論的に説明できないことも多いですよね。
なんだかわからないけれど胸が熱くなる……
なんだかわからないけれど涙が出てきた……
なんだかわからないけれど、脇役のこの子がとても好き……
なんだかわからないけれど。。。
この部分を解明できれば、思いを文章に紡いでいくことができます。
ぼんやりしていて、どこからどう話せばよいのかわからない……だからもどかしくなり、結局伝えることを諦めてしまう。
書くことが苦手という子は、なにも考えていないのではなくて、むしろ感情豊かな子なのかもしれません。
そんなことを考えていたの⁉親が聞いたら衝撃の事実
感想文を書くときは、その一冊を読んでいちばん心に響いたところをあげてもらいます。
ひとつに絞れない子もいますので、その場合は心に残った場面に付箋を貼ってもらいます。
「なんでここがよかったか教えて~」
をきっかけに対話を繰り返し、自分が何に反応したのかを気づいてもらうのです。
私はその共通点を探り、その子がどんなことに感情をゆさぶられるのかを探ります。
今回、ふたりがとても素直に、心の内を答えてくれたので、思っていることが明確に現れました。
その1 ハチ公物語の子
こんなことを考えていた!
まず、ひとりめ。ハチ公物語を読んだ子。
この子がいちばん心に残った場面は、ハチが亡くなったところ。
みんなが、やっと(ご主人様の)先生のところへ行けるね、安心できるね、とハチに言葉をかけてあげるシーンなのです。
以前飼っていたハムスターも、天国でぼくのことを待っているんだろうか?
そう考えていました。そして、奇遇にも、つい最近犬を飼いはじめたのだと。
やんちゃな子犬は、そのハムスターと性格がそっくり。
もしかして、ぼくはまだ子どもで、天国にやってくるのを待っていたらあまりにも時間がかかるから、子犬に生まれ変わってぼくのところにやってきたのかもしれない……と。
なんて素敵な感性をしてるんでしょう!
この子はとても優しい子なのですが、心の中にこんな思いを持っていたのですね。
生きることと死ぬこと、犬の飼い主への忠誠心、心の触れ合い、うまく言葉にできない心の中の片隅を、たしかに実感できたようでした。
お母さんの感想
実は、去年の感想文に7時間かかったというのはこの子なのです。
昨日、彼が帰宅してから、お母さんから連絡がありました。
まさか2時間で完成できるなんて思っていなかったのでびっくりしました。最近、反抗期に入ったのか、なにを考えてるかさっぱりわからなくて。でも、こうやってあの子なりにちゃんと考えているのだなとわかってほっとしました。
このようなことをおっしゃっていました。
「ロボット魔法部はじめます」の子
この本に惹かれたのは、主人公がゲーム好きだったからなんですって。しかも、表紙の絵がマンガっぽくて、おもしろい本なのだと思ったと。
自分と共通点のある主人公には興味がわきますよね。
さて、この子は、どんなところが心に残ったのでしょうか。
主人公は陽太郎という男の子。ひょんなことからロボットダンス競技に目覚めます。ある日のロボット競技の審査。審査の際に重要なシートがあるのですが、審査当日にそのシートを忘れてきた美空をかばい、陽太郎は自分が忘れたと言います。そして、大事なのはシートではない、ちゃんと演技をみてくださいと審査員の前で言うのです。
彼はこの場面が気に入ったようでした。
こんなことを考えていた!
対話をしながらその理由をひも解いてみると、
- 誰かをかばうことはなかなかできない→すごい
- 大勢の前で自分の意見を言うのは勇気がいる→それをやってるのはすごい
- 大事なのはシートじゃない、演技を見て!→共感した
そして、さらに対話で、この共感したの部分を深く見て行きます。
どうして共感したのかというと……
どんなに授業を頑張っていても、テストの結果が悪いときがある。それなのに、お母さんはテストの結果だけで評価する。途中の頑張りは全然見てくれない。ほんとうに見てほしいところは、全然見てくれないところがイヤだ。
シートが評価の基準になっていることが、テストの結果だけで評価されるところと同じだなと感じたようです。
どうしてこの場面が気に入ったのか、自分の心の中がはっきりわかった彼は、そのあと一気に書き上げました。
お母さんは知らない事実
この物語の中でも、主人公の陽太郎がテストの点数が悪いことを母親に責められる場面が登場します。
陽太郎は、いじめを受けていて、それが理由で勉強に身がはいらなかったのです。それでも、親に心配をかけるまいと、いじめのことは黙っていました。
この子は、そんな事情があったのに、テスト結果を責められて、ほんとうにかわいそうだと話してくれました。
共感したということは、この子も、親を心配させないようにと無理した体験があるのかもしれません。親が知らないところで、子どもはいろんなことと戦っているのですよね。
自分の気持ちに気付くことが感想文の何よりの意義
感想文なんて書いてなんの意味があるの? という意見もよく聞きます。
さらには、本なんて読んでなんの意味があるの? という声も。。。
確かに、「なんの意義があるの?」 「めんどくせー」と思いながらイヤイヤ取り組んでいたら、なんの意義もないでしょう。
でも、苦手ながらもしっかり取り組んだこのふたり。とても意義があったと思います。
自分が今、どんなことを思っているのか、どんなことを考えているのか、そこに気付くことができたのがなにより意義あることではないでしょうか。
心もぐ~んと成長する時期。いろいろなことを感じているのに、その正体がわからなくてモヤモヤしてしまう。
そんな状態を、書くことで客観的に見つめることができます。
心の中をひとつひとつ探っていく作業は、今回のみではなくて、今後自分自身で考えをまとめるときにも使えるはずです。
それだけでも、感想文には意義があると、私は思ってます。
『ロボット魔法部はじめます』で書いてくれた子のように、書きあがった感想文だけで評価するのではなく、書く過程での心の動きや気づきにも、目を配れる指導者でありたいと考えています。