みなさん、こんにちは!
学習塾シンクスで作文を教えている菅野恭子です。
前回は、中学年向けの課題図書「レイナが島にやってきた!」で感想文を書くなら……をお伝えしました。
今回は、高学年(5,6年生)向けの課題図書「こんぴら狗」で感想文を書くためのポイントをお話ししようと思います。
前回同様、親御さんがご家庭で教えることを前提にすすめていきます。
「こんぴら狗」のあらすじ
江戸時代、日本にはこんな犬がいた
こんな習わしがあった……
こんな前書きではじまるこのお話。
舞台は江戸時代。
当時は、庶民が旅をすることが禁じられていた時代。そんな中、唯一許されていたのが神仏への参拝でした。庶民にとってお伊勢参りと金毘羅参りは生涯の夢だったそうです。いまと違い交通網も発達していない江戸時代のこと。もちろん徒歩での旅です。江戸から金毘羅参りに行くとなると、往復1340キロメートルという距離。当然、ほとんどの人にとっては夢のまた夢だったわけです。
それでも金毘羅参りをしたい…そんな思いを旅慣れた人に託し、代わりにお参りしてもらうこと(代参)が広まり、さらに、人ではなく飼い犬に託し、飼い犬に代参させるという風習まで生まれたそうです。そうした犬を「こんぴら狗」と呼びました。
このお話では、ムツキという、日本橋の線香問屋郁香堂で飼われていた犬が、この店の娘、弥生の病治癒祈願のためにこんぴら狗として金毘羅参りに出かける物語です。
当初、一緒に出発した近所のご隠居さんは途中で命を落としてしまいます。その後、ひとりぼっちになったムツキは、こんぴら狗だということで出会う人々に助けられながら、なんとか金毘羅参りを果たすことができます。
道中次々に起きるアクシデントや、出会った人々との心温まるやりとり、また、ときに人間の汚さにも遭遇します。
ムツキの3か月にわたる金毘羅参り。無事に郁香堂に戻ることのできたムツキは、弥生と感動の再会を果たします。弥生の病も、お参りのおかげか、すっかり回復したのでした。
金乃比羅宮にあるこんぴら狗の銅像。
「こんぴら狗」は、こんな子におすすめ
江戸の庶民の暮らしぶりを、ムツキという犬の目線で描写しています。また、ムツキの動作や心情などの描写が大変いきいきとしていて、犬を飼っている子や犬好きな子、動物好きな子にとっては、興味深く読める物語だと思います。
もちろん、歴史が好きな子、人々の暮らしや生活全般に興味がある子にとっても、楽しく読める一冊だと思います。
300ページを超えるボリュームなので、ふだんからあまり読書の習慣がない子には、興味がない場合、読むのが大変かもしれません。
感想文の流れ
大きな構成としては、
- あらすじの紹介
- ネタ1
- ネタ2
- ネタ3
- まとめ
という流れで進めていきます。
ネタとは、
いちばん心に残った場面は~
↓
自分の似た体験
↓
家族など、人から聞いた似た体験
この流れをひとつのまとまり(ネタ1)とします。
心に残った場面がいくつかある場合、その数に応じてネタ3くらいまでの構成を作ることができます。
こんぴら狗のテーマは?
こんぴら狗が伝えたいテーマとしては、
- 人間と犬との絆
- 信仰心
- 人との出会いと別れ
- 人間の強さ、あたたかさ
あたりが考えられます。
もちろん、子どもならではの視点で発見したテーマもあると思います。
まずは心に残った場面を選んでみよう
かなりのボリュームではありますが、まずは、心に残った場面をいくつか選んでみましょう。
これだけのボリュームになると、一文を抜いてここが心に残ったと言うのは困難です。
目次を利用して、どの章が心に残ったか、大きく考えてみることをお勧めします。
ちょうど章ごとに物語の区切りが明確になっています。
第一章 捨て犬(瀕死のムツキが弥生に拾われ、郁香堂の飼い犬になる)
第二章 病つづきの家(弥生の兄が病死、弥生も病に伏せる)
第三章 旅立ち(近所のご隠居の提案でムツキがこんぴら狗として旅に出る)
第四章 東海道へ(日本橋を出て箱根の山越え芦ノ湖の関所を越えるまでの話)
第五章 別れ(一緒に旅に出たご隠居が倒れ、ムツキはひとりぼっちに)
第六章 薬売り(ニセ薬売りと大阪へ)
第七章 船の旅(大阪の出船所を出てから丸亀港までの船旅、芸者オトシとの出会い)
第八章 金毘羅(芸者と一緒についに金毘羅大権現へ)
第九章 もどりの旅(オトシとの別れと雷に驚き道に迷い白犬に出会うまで)
第十章 村送り(宗郎との出会い)
第十一章 最後の道連れ(安心できる宗郎一行と江戸へ)
第十二章 江戸へ(懐かしい街並み、弥生のもとへ)
この章の中から、心に残ったものをあげるのもよいでしょう。
私が感想文を書くとしたら、
- 第八章(目的地の金毘羅大権現へ到着したところ。ムツキがやり遂げた場面では心が熱くなるし、芸者の女性たちのムツキへの温かいまなざしに共感する)
- 第十二章(こんぴら狗の役目を立派に果たし、無事に弥生との再会を果たしたムツキに、心からねぎらいの言葉をかけてあげたくなる)
あたりを使います。
また、別なアプローチの仕方としては、
- いちばん驚いたのは、当時の人たちの信仰心の強さだ(歴史的見地から)
- いちばん印象に残ったのは、しゃべれないムツキが体全体や表情を使って出会う人々とコミュニケーションをとる姿だ(犬の習性に着目)
- いちばん嬉しかったのは、犬と人間は、ずっとずっと昔から仲良しで、心を通い合わせることができる間柄だったということだ(犬が昔から人間の友であったことに着目)
こんなふうに、章に囚われず、全体を読んで受けた印象を使ってもOKです。
全体を読み取る力、要約力がないと、このアプローチはちょっと難しいかもしれません。
その場合は、いくつか興味を持った部分をあげていき、親御さんが上手にまとめてあげるとよいでしょう。
自分自身の似た経験、親御さんの似た経験を挙げていく
「いちばん~」を決めることができたら、次の作業に移ります。
いちばん~で選んだ内容と似た経験を探していきます。お子さん、親御さんそれぞれ、自分の経験から探してみましょう。
たとえば、自分の体験から。
- 自分も犬を飼っている。その犬をこんぴら狗にできるか?自信がない。
- 宿泊学習やキャンプなどの行事のときは、親はネットで子どもの様子を見ることができる。ムツキがこんぴら狗で旅に出た時代は、生きているか死んでいるかすらわからない状態だなんて辛すぎる。
- 自分の家では、なにも信仰していないけれど、初詣に行ったり、合格祈願に行ったりする。江戸時代の人は、ムツキがこんぴら狗というだけで神様のお遣いとして大切にしてくれて、信仰心が厚いのだなあと驚いた。
たとえば、家族に聞いた話から。
- 母も子どものころからずっと犬を飼っていたそうだ。母が実家を出てから、お盆やお正月に帰省すると、足音だけで母だと理解して、大喜びで待っていたらしい。まるで弥生と再会したムツキと同じような行動をとったらしい。
- 祖母が子どものころ、飼っていた犬は、いつも学校まで一緒に行っていたらしい。学校に着くと、自分だけで家に帰っていったそうだ。犬は匂いで道を覚えているから迷子にならないと聞くが、ほんとうなのだと思った。
このような話題を用い、ネタの部分を完成させていきます。
最後にまとめの部分
最後の部分は全体のまとめです。
いちばん心に残った部分から、体験談、聞いた話と、すべてに関連する感想が入ることを目指してみましょう。
これがクリアできると、一貫した内容の感想文になります。
参考例
みなさんはこんぴら狗という言葉を聞いたことがありますか?江戸時代、庶民にとって金毘羅参りは大きな夢でした。今と違い、交通が整っていない時代ですから、なかなかできることではありませんでした。そこで、旅慣れた人に代わりに金毘羅参りに行ってもらう習わしがあったそうです。人ではなく飼い犬に行かせることもありました。このお話は、ムツキという犬がこんぴら狗として、江戸から讃岐の金毘羅大権現まで、無事にお参りをして帰ってくるまでのお話です。
私がいちばん心に残った場面は、ムツキが最終目的地である金毘羅大権現の御本社にたどり着いたところです。途中の船着き場から一緒に旅をしてきた芸者の3人が、ムツキのお祈りと、ムツキが無事でありますようにと祈るところに心を打たれました。こんな小さな体で、ほんとうに江戸から、飼い主の病祈願のためにやってきたのかと感動した芸者たちは、ムツキの帰途の無事を金毘羅大権現に祈ります。前に、飼っていた犬が死にそうになったとき、学校帰りに神社に寄って、私も毎日祈りました。心から祈りました。だから、この芸者たちが祈ったとき、その気持ちがとてもよくわかりました。私の家に仏壇はありませんが、母の実家には立派な仏壇があります。母が子どものころは、母の祖母、私のひいおばあちゃんが、毎朝仏壇にお供えをして祈っていたそうです。なにかに手を合わせることは、私たちはあまりすることがありませんが、昔の人はこうやってずっと、なにかに祈ってきたのだなあと思いました。江戸時代からずっと、もしかしたら江戸時代よりもずっと前から、日本人はこうやって祈ってきたのでしょう。そういう習慣がなくなってしまうのは、ちょっとさみしいことだなとも思いました。
江戸時代は、病気になったら病院で治してもらうこともなく、お薬をのむこともなく、たくさんの人が亡くなっていったと思います。だからこそ、こんぴら狗のような風習もできたのでしょう。ムツキが頑張って金毘羅大権現にお祈りしたおかげか、弥生の病は無事に治りました。偶然といえば偶然なのかもしれません。でも、祈りの力は、ほんとうに大きいような気がします。ずっとずっと続いてきた手を合わせて人々の幸せを祈る風習は、これからも日本に残るといいなあと思います。
自分の思いを大切に
どこに興味を持つか、どこがおもしろいと思ったか、それは人それぞれ、違って当然です。
自信をもって、「いちばん~」の部分を考えていきましょう。
適当に決めないように、自分の体験や家族から聞いた話としっかりつなげていける「いちばん~」を選ぶようにしてくださいね。
似た話と聞いた話で内容を十分深められる場合は、参考例のようにネタをひとつのみで構成できます。
反対に、似た話と聞いた話で字数が増えず、内容的にもさみしい場合は、もうひとつネタを追加して、
- あらすじ
- 心に残った場面1→自分の似た体験→聞いた話
- 心に残った場面2→自分の似た体験→聞いた話
- まとめ
としたらよいでしょう。
その場合、まとめは、心に残った場面1、心に残った場面2の両方に共通する思ったことやわかったことを考えてみると洗練された感想文になります。
とにかく物語の内容が素晴らしい一冊です。感想文をかくためではなく、まずは読み物として楽しんでもらえたらと思います。
頑張ってくださいね!
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